東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)94号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
二 前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証の一ないし三(本願考案の願書並びに添附の明細書及び図面)、第一二号証(昭和六〇年六月一〇日付手続補正書)を総合すれば、本願考案は、瓦の製造に際して成型後の瓦素地を乾燥させ施釉等の次工程へ送る装置に関する考案であること、瓦の製造工程のうち乾燥工程は、従来、手作業によらざるを得ない部分が多く省力化、大量生産化されていなかつたほか、乾燥のさせ方も、近年まで天日乾燥によつており、最近に至つてようやく屋内の、焼成窯の上で窯から洩れる熱を利用するものに進歩したが、それも、水平面上に瓦素地を直立させ立て干しにするか、立て掛け台車の横桟に瓦素地の下縁を載せ側面をその上段の横桟にもたせかけて乾燥させる、いわゆる立て積み乾燥方式を採用していたため、瓦素地のほぼ全重量が瓦素地の下縁全体にかかり、或いは瓦素地をその谷部分の裏面の凸部のみで支える形となつて乾燥収縮時に瓦素地がどちらにも反りやすく、また、不安定であるため倒れかかつて傷が付く等により、歪みや、品質のばらつきによる製品の不良率が高くなる欠点があつたこと、本願考案は、右のような状況にかんがみ、従来型の装置のように瓦素地を立て積み状態で乾燥させるのでなく、これをパレツト上に平伏状態で載置したまま乾燥させる装置とすることにより、瓦素地の乾燥時の変形、歪み等による形崩れや品質むらを解消し、併せて、瓦素地の乾燥から次工程への移送作業までを完全に自動化することを目的として、本願考案の要旨のとおりの構成を採択し、もつて、右目的に相応する作用効果を奏し得たものであることが認められる。
他方、第一引用例に審決認定のとおりの事項が記載されていること、本願考案と第一引用例記載の装置との間に審決摘示のとおりの一致点及び相違点があることは当事者間に争いがなく、また、両者は、第一引用例記載の装置が瓦素地を立て積み状態で乾燥させることを前提とするものであるのに対し、本願考案の装置がこれを平伏状態のまま乾燥させることを前提とするものである点においても相違すること、審決はその旨明記していないものの、両者の相違点としての右の点をも取り上げ、この点との関係でも第二引用例を引用しているものであることについても、当業者間に争いがない。
三 取消事由に対する判断
原告は、本願考案と第一引用例との相違点である、本願考案がパレツトの構成を独自のものとした点(取消事由(1))及び瓦素地を平伏状態のままで自動的に一貫乾燥し得る装置とした点(取消事由(3))につき、審決が、第二引用例を引用して、これらがいずれも当業者のきわめて容易に想到し得るところにすぎず、格別の作用効果を奏するものでもないと認定判断した点を争つているので、この点について判断する。
1 第二引用例に審決認定のとおりの事項が記載されていることは当業者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証(同引用例)によれば、同引用例記載の発明は、従来、瓦素地の乾燥が、瓦素地を台上に起立させ少し間隔をあけて並列し、天日乾燥を行うか大気に曝す方法によつていたので、日光や風に当たる部分が最初に乾燥し、右早乾部に亀裂を生じたり、この部分を内側にして瓦素地が湾曲して、多数の不良品が発生する欠点があつたため、これらの歪み等をなくし、電熱により一定の標準型に合致した乾燥瓦を得る装置を提供することを目的とし、また、右装置は、標準型をなす既成瓦を水平に置き、その下に、右既成瓦と接する部分に孔を穿ち電熱線を引き込んだ土管を並べたもので、柔軟な未乾燥瓦を右既成瓦の上に平伏状に載置し微圧を加えてなじませ電熱を通じると、右土管の孔から電熱が上昇し、既成瓦が中央部より熱せられて中央部の温度が周縁の温度より高い熱板となり、一方、瓦素地の周縁は中央部より乾燥しやすいため瓦素地全体が平均した乾燥速度を得ることができ、更に、右既成瓦は多孔質であるため、これに接着する瓦素地の面より発する水蒸気も既成瓦を通じて発散して良好な乾燥状態となる旨の記載があることが認められる。
2 取消事由(1)について
(一) 本願考案のパレツトの構成は「表面形状が瓦素地の底面形状に倣つて形成されかつ多数の間隙を設けてなる」ものであるが、そのうち「多数の間隙を設けてなる」の技術的意義を検討すると、前示本願考案の要旨及び本願明細書に弁論の全趣旨を総合すれば、(1)被告が主張するように、本願考案の装置における「乾燥室」が実施例記載の構造のものに限定されるものでないが、その文言上右「乾燥室」による乾燥方式が天日乾燥のようなものを含まず、少なくとも、瓦素地を「乾燥室」内の熱せられた空気と接触させることにより乾燥させようとするものであることは明らかであること、(2)前記二記載のように、本願考案の装置は、成型後の瓦素地をパレツト上に平伏状に載置した状態のまま前記のように、乾燥室において熱せられた空気により乾燥させるものであるが、仮に右パレツトに何ら間隙を設けないものとすれば、パレツト上に載置された瓦素地の底面とこれを乾燥させるための熱せられた空気が接触することができず、瓦素地の底面の乾燥が妨げられるのみならず、該底面(裏面)と表面との乾燥速度が揃わず、その収縮度が異なつて、瓦素地に反り等を発生させる原因となるため、右パレツトに「多数の間隙を設け」ることにより、瓦素地の底面全体に瓦素地を乾燥させるための熱せられた空気を流通させ、もつて、パレツトに接する底面の乾燥を妨げないようにするとともに、瓦素地の表面側と裏面側の乾燥格差をなくすことを目的とするものであり、したがつて、本願考案にいう「間隙」とは、原告主張のとおり、熱せられた空気を流通させて右目的を達成できる程度の大きさを有することが必要不可欠であることが認められる。
(二) これに対し、第二引用例には、前記1認定のとおり、未乾燥瓦を平伏状に載置するために使用する既成瓦が多孔質であるため、これに接着する瓦素地の面より発する水蒸気も既成瓦を通じて発散して良好な乾燥状態となる旨の記載があるが、右既成瓦の孔が非常に微細なものであることは風雨防止のため屋根に敷設される瓦の性質上当然であるから、右孔が本願考案における「間隙」のように瓦素地の底面とこれを乾燥させる空気との流通を図れるようなものではないことは明らかであるのみならず、そもそも、同引用例記載の装置は、前記1の認定からも窺われるように、本願考案の装置とその乾燥の原理を全く異にし、瓦素地と熱せられた空気との接触により乾燥を行うものではなく、瓦素地を載置する既成瓦自体を熱して、これを介して伝導する熱により瓦素地を乾燥させようとするものであるから、乾燥に当たり、瓦素地をパレツト(既成瓦、既成瓦もパレツトとして使用されるものである。)上に平伏状に載置したまま乾燥させる点では本願考案と同様であつても、本願考案におけるように、瓦素地を乾燥させるための空気と底面との流通を図ることにより、瓦素地の底面(裏面)と表面との乾燥格差をなくそうとの技術的思想をも欠くものといわざるを得ない。
(三) そうであれば、本願考案の「多数の間隙を設けてなるパレツト」と第二引用例記載の「多孔質の既成瓦」とは明らかに構成を異にしており(この両者が実質的に同一であるとの被告の主張は採用できない。)、また、前記一に認定したところによれば、本願考案が右構成を採択することにより、同引用例にはみられない前記一(2)に認定した目的にそう乾燥効果を奏し得たのであるから、同引用例における既成瓦に関する記載から、本願考案におけるパレツトの間隙に関する構成をきわめて容易に想到することはできないものというべきである。したがつて、これに反する審決の相違点(1)に対する認定判断は誤りである。
3 取消事由(3)について
更に、取消事由(3)についても付言するに、前記二で認定したとおり、本願考案は、本願考案の要旨における各構成要素(各装置)を組合せることにより、全体として、第一引用例記載のもののような従来型の装置における瓦素地を立て積み状態で乾燥させるものとは異なり、これを平伏状態のまま乾燥させ得る装置となした点に特徴を有し、これによつて、立て積み状態での乾燥を前提とする装置における欠点を解消して、立て積み状態で乾燥させることに起因する瓦の形崩れ等を減少させ得たものである。
また、本願考案では第二引用例記載の装置同様乾燥に当たり瓦素地を平伏状に載置しているとはいえ、同引用例とは技術課題、構成を異にし、同引用例ではみられない効果を奏し得たのであるから、本願考案の構成、効果が第一、第二引用例の単なる組合せ又は寄せ集めであるとしてその進歩性を否定する被告の主張は採用できないし、本願発明の効果の顕著性を否定した審決の判断も誤りである。
4 そして、以上の判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかというべきであるから、原告のその余の主張について検討するまでもなく、審決は違法として取り消されるべきである。
三 よつて、原告の本訴請求を認容する。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
表面形状が瓦素地の底面形状に倣つて形成されかつ多数の間隙を設けてなるパレツトの待機位置に近接させて乾燥前の瓦素地を平伏状にパレツトに搭載させる吸着器を主たる構成要素とする搭載装置を設け、搭載装置に連設させて移送装置4が設けられ、移送装置4の傍に積込み積降し装置3が設けられ、積込み積降し装置3と一定の距離を隔てて乾燥室7が設けられ、積込み積降し装置3側から乾燥室7を通過させ積込み積降し装置3側に至るレール等の循環経路を設けると共に循環経路上に台車34を配置させ、積込み積降し装置3と搭載装置との間に回収装置5を設け、回収装置5の傍に積換装置Kを設けてなる粘土瓦の製造装置。(別紙(一)図面参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>